まず初めに、私などが申し上げるまでもなく、星新一氏が、偉大なSF作家だということを、ことわったうえで、話を始めましょう。
ここでは、親しみ、尊敬、愛情を込めて、いつもそうしていたように、星さんと呼ばせていただきます。
星さんと初めて、お目にかかったのは、夫・豊田有恒との結婚にあたり、仲人をお願いしに伺ったときです。
有恒とは、一回り上の同じ寅年でしたから、まだ三十代の若い仲人さんだったことになります。
結婚後、私たちは、渋谷区の富ヶ谷のアパートに住んでいました。
当時、SF作家クラブの例会は、新宿十二社(今の西新宿)にある台湾料理店「山珍居」で行なわれていました。
いつも二次会は、我が家に流れてくることに、決まっていました。
3Kの狭いアパートに、大勢が集まり、深夜まで、SFのことを語りあうばかりでなく、筒井康隆さんのギャグを、星さん、小松さんが膨らますといった具合に、大いに盛り上がり、時間を忘れるような楽しいひと時でした。
時には、新婚家庭が、三人で襲撃されることもありました。
メンバーは、その折々で異同があるのですが、たとえば星さん、矢野徹さん、平井和正さんなどが、マージャンをしに押しかけてくるわけです。
とうとう我が家は、のちに下北沢に家を買ってからも、星さんの命名で雀豊荘と呼ばれるようになってしまい、SF作家の溜まり場であり続けました。
筒井康隆さんが連れてきた縁で、まだ今ほど有名でなかったころのタモリさんも、我が家の常連でした。
星さんが、会いたいと言われるので、引きあわせたところ、お互いファン同士ということで、いっぺんで意気投合しました。
タモリさんは、得意の密室芸を披露してくれたばかりでなく、動物のものまねも、あれこれ演じてみせ、座を盛り上げてくれました。
おなじみのイグアナ芸だけでなく、ニワトリやワニなど、さまざまな動物の特徴をとらえて、芸にしてしまうのですから、まさに天才です。
酒の上とはいえ、こうした芸を、ただで拝見できたのですから、贅沢な話でした。
中でも、星さんとのコラボでは、「ダンゴ虫」の芸が、圧巻でした。
星さんが、背中をつつくと、タモリさんが、くるっと丸くなって、動かなくなってしまいます。
しばらくすると、もぞもぞと動き出すのですが、また星さんが突っつくと、丸くなります。
われわれギャラリーは、肚の皮がよじれるほど、大爆笑。
スマホなどない時代でしたから、証拠写真は残っていませんが、あのときの星さんの子供のような笑顔は、今でも鮮明に脳裏に焼きついています。
2019年7月
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