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 寄せ書き 
Char「First-magnitude star」
ギタリスト
 戸越銀座商店街という所は、とにかく凄い。何がスゴイと云うと、とにかくオバサン天国なのである。今でこそ国道沿いにワンルームマンションが建ち並び、若い男女が多く歩いているのを見かけるが、最近までは、完全にオバサンと云うか、主婦の群れに圧倒され、恐怖さえも感じさせる商店街だったのである。要は男性が殆ど居無いのである。そんな景色の中で昼間からそこを歩いている男は、私の様な夜型のミュージシャンか、星さんぐらいしかいなかった。

 私は本当によく星さんを見かけた。何故か寒い季節より、暑い時によく出くわした。ワイシャツ、スラックス、ヘップサンダル、そして必ず片手にビニール袋をさげて、ゆったりと商店街を歩いていた。その人物がかの星新一とは、はじめは知らなかった。それがわかったのは、ある日、私の母に「あなたの書棚に多くの星新一の本があるけどファンなの?」と聞かれた時だ。

 母は私が生まれた昭和30年頃から、ここ、戸越銀座で、耳鼻咽喉科、眼科の開業医として地元の人達に「戸越の鬼ババ」と称され愛された女医であった。実はこのサイトの開設者であるお嬢さんのマリナさんは、日本人の草分け女子サーファーとして、当時その世界で実に有名な人物であった。その職業病なのか、頻繁に竹中医院に通っていた。勿論、母は、お父様がかの星新一さんと知っていて、私の事をマリナさんに「星新一ファン」の一人として話をしていたらしい。

 戸越には「星」という姓が多い。私の学校にも何人かいた。現在のTOC(東京卸売センター)あたりには、私が幼少の頃、「星製薬」の巨大なレンガ造りの英国風建築物が燦然とその威厳と存在を示していた。また、その近くには「星薬科大学」もあって(現存)、「星」というその一文字は戸越のどこにでも見られる一文字であった。

 私の中学校の向かいの家の表札も「星」であった。まさか、そこが「星新一」の自宅である事実を、当時の私は知る由も無く、私の中では「ONE OF THE STARS」として考えていた。マリナさんのお陰で、そこが本家本元の「STAR」である事を知った。私は興奮した。そして、もう一度著書を取り出し、著者近影の写真を見直し、あの“ビニール袋”の紳士が“星新一”である事を確認した。

 当時、星さんに出くわす一番のスポットは、本屋さんであった。ミュージシャンがレコード屋に、もの書きが本屋に通うのは、今考えればあたり前の事とは思うが、本屋の店主の話によれば、星さんは、御自分の著書がちゃんとそこにあるか確認をしているかの如く、その前にいつも立っていらっしゃったそうである。それが事実だとすれば、何とも純粋な動機であろう。その時点でもうすでに、何作ものベストセラーを出している著者本人が、新作を出すたびに、その本屋に現われ、その著書を見つけ出そうとしているその光景を想い浮かべると、無性にあの「星新一」に出くわしたくなる。

 私の数ある宝物のコレクションの中で、一番のそれは、当時マリナさんに頼み込んで、いただいた星さんのサイン色紙である。
 私の中で星新一は、永遠に輝き続ける、一等星なのである。


2012年9月

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