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寄せ書き
真鍋真 「午後の恐竜」と「生命のふしぎ」
真鍋博氏 長男・恐竜博士 |
私の父・真鍋博(1932〜2000)は、星新一さんの挿絵を数多く担当させていただいていたイラストレーターだったのだが、私が星さんにお目にかかるチャンスはなかった。
私は父親が未来などを語っているのに反発してか、過去をフィールドにしている。
過去と言っても、今から何千万、何億年前に生きた恐竜を古生物学的に研究している。
その真反対さに驚いて下さる方もいるが、「お父様と同じようなお仕事をなさっているのですね」とおっしゃる方もいる。
恐竜なんて夢のあるという意味だと思うが、恐竜なんて確からしさの低いことをやっているということかもしれない。
しかし、真鍋博と私は現在に立って、彼は未来の方を向いていて、私は過去の方を向いていて、互いに時間軸という同じ座標の上で仕事をしていたということに、父が亡くなってから実感させられている。
私は、職業柄、星さんの作品の中では「午後の恐竜」に一番親近感を感じている。
このHPの読者にいまさら星さんの作品の解説は必要ないが、地球の終焉直前に地球がそれまでの「生涯」をパノラマ視現象で振り返る経験をし、地球人がそれを目撃するという壮大なコンセプトだ。
奇抜なタイトルから本を手に取る読者がいるかもしれないが、この地球の「生涯」においては、恐竜はある一日の午後の一瞬の存在に過ぎず、恐竜はさほど重要ではない。
また、この作品で、地球の46億年の「生涯」の最後は、狂った原子力潜水艦長の仕業であることもショッキングである。
「午後の恐竜」を最初に読んだのはいつだったか記憶していないが、9.11の後にこの作品のことを思い出した。
また、人間の狂気ではないが、3.11のおりにもこの作品のことを思っていた。
だから、「午後の恐竜」を恐竜の小説として紹介するのは気が進まない。
しかし、私は、恐竜を入口に進化や地球史に関心をもってもらうきっかけとして、「午後の恐竜」を最新の古生物学に照らし合わせて解説する授業をやったりすることがある。
まず、人々が古代生物の幻想のようなものを見て、やがてその現象は世界的なことであり、時間とともに生物は進化していることに気づく部分を朗読して、作品のあらすじを紹介する。
もちろん最初は原子力潜水艦の話はしない。
そしてその日の出来事を時間経過とともに整理して、地球の46億年の「生涯」を3時間で1億年ぐらいのペースで振り返っていることを解説する。
星さんが「午後の恐竜」書かれた1968年ごろは、恐竜は大きくなりすぎて、環境変化に適応出来なくなり、絶滅してしまったと考えられていた。
今では、恐竜は完全に絶滅したわけではなく、その一部は鳥類に姿を変えて、進化を続けていることを解説する。
恐竜は完全に絶滅したのではなく、一部は鳥に姿を変えて、現在も進化を続けていることが知られるようになったのは1970年代半ばである。
爬虫類は気温の変化によって体温が影響を受けてしまう変温動物で、当然、恐竜も変温動物だと考えられていたが、鳥類に近縁な恐竜はすでに恒温動物に進化し始めていたらしいことも明らかになった。
恐竜のイメージが著しく変化したことから、1975年に「恐竜ルネッサンス」と呼ばれるようになった。
さらに1990年代に、一部の恐竜の体はウロコではなく羽毛でおおわれていて、翼をもったものがいたことがわかり、恐竜から鳥類へ進化したことが広く知られるようになった。
恐竜から鳥類へ連続的な進化が起こっていたことを裏付ける化石が次々と発見されたため、どこまでが恐竜でどこからが鳥類なのか、その境界線が引けなくなってしまった。
そこで、現在、鳥類は恐竜の部分集合に分類されている。
ニワトリもカラスも鳥類だが、さらに大きな分類では恐竜なのである。
星さんは、私が生まれた1959年に「生命のふしぎ」という本を書かれていて、それがオンデマンド出版で入手出来ることを知り、読む機会を得た。
「生命のふしぎ」は星さんの最初の著作としても紹介されるが、新潮社の「少国民の科学」というシリーズの一冊として出版されたもので、こどもたちに生命の起源から生物進化をわかりやすく解説した書である。
コナン・ドイルの「失われた世界」や、ロボットだけが住んでいる遊星や、地上最後の人間となる原子科学者の科学小説を紹介しながら、サイエンスの最先端の研究を解説している、星さんにしか書けなかったであろう作品である。
星さんはまえがきの中で、「……多くの科学者があらゆる部門で研究をつづけ、一歩一歩、生命の本質にせまりつつある。
そして、これを受けつぎ、さらに"生命"とはなにかを明らかにし、またその研究の結果を応用してわたしたちの生活を高めるのは、あなたがたの仕事なのではないだろうか」と子どもたちへのメッセージをおくっている。
私は、1959年当時の最先端と現在のサイエンスの知見を照らし合わせながら、「生命のふしぎ」を読んでいった。
そこで驚かされたのは、星さんが鳥類の起源について「恐竜たちのうちで、木の上にくらし、翼をもちはじめたものがいたが……」と書いているのである。
鳥類の恐竜起源説は19世紀に提唱されていたのだが、1920年代から1960年代頃までは否定されていたと考えられている。
「生命のふしぎ」には文献が引用されていないので、星さんがどのようにして、当時の最先端もしくは最異端だろう仮説をいち早く入手したのかはわからない。
私はこの一行に、生物学者・作家星新一さんのすそのの広さを感じている。
星さんは1997年に亡くなったので、恐竜は恒温動物で、鳥類に進化した系統以外のその大部分は、たまたま飛んできた隕石によって絶滅したことはご存知だっただろう。
恐竜の中で生き残ったのは一部に過ぎなかったが、現在、地球上にいる哺乳類は約6000種なのに、鳥類は10000種いる。
生物多様性を考えると、現在の地球はまだ恐竜(の子孫)に支配されていると言えるのかもしれない。
星さんがいま恐竜をテーマにするとしたら、どのように恐竜をえがくだろうか?
2013年7月
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